「コロナうつ」の蔓延のなかで

7都府県に緊急事態宣言がでました。日々緊張感が増し、先行きの見えぬ不安な生活が続いています。テレビでは医学、政治、経済、など様々な専門家が意見を述べています。なのでここではあえて、私たちが今置かれているこの現状を、臨床心理学の専門家としての視点で考えてみたいと思います。
「コロナうつ」などとの言葉が言われています。この状況で「うつ」になるのは当然です。世界中が今、うつ状態にあるのです。なぜなら、私達は今、非常に大きな喪失の真っ只中にいるのです。子供も大人も世界中が喪失を体験しています。日常生活を喪失し、社会への信頼を喪失し、仕事、学校や友人との対話、楽しみな趣味、そしてご自身の健康、家族や大事な人、子供の頃から親しんだコメディアン、様々な水準での喪失が起きています。

臨床心理学でモーニングワーク(mourning work)という言葉があります。悲哀の仕事などと訳されます。モーニングワークとは,愛情や依存対象を死や別れによって失う体験,つ まり対象喪失に引き続き営まれる心 理過程のことです(小此木,1979)。この心理過程においては,失っ た対象へ の思慕,くやみ,恨み,自責, 怒り,仇討ち心理などの 悲嘆が体験され,その 中で気持ちの整理を時間をかけて行っていくというものです。喪失体験があまりに大きかったり、その時にサポートを得られず、自分1人だけでそれを乗り切らねばならないなどによって、モーニングワークの過程に入っていけないと、喪失を否認(ないことにする)し、軽躁的、(空元気、無頓着)万能的(自分は1人でなんでもできる、過剰なポジティブ)に喪失の危機を持ちこたえようとします。しかしそのような方法は、早晩立ち行かなくなってしまいます。

喪失の只中にいるのは、辛く、哀しく、不安で苦しいものです。私達は万能ではないので、できることは限られています。しかし、その出来ることを見つけ、それをすることが出来ます。自分も苦しいけれど、周りの人も苦しく、それを想像し思いやることも出来ます。そして待つことができ、これは永遠ではなく、終息する日がくることを知っています。今、私達はウィルスや非日常、切迫した経済と闘っていますが、自分自身のなかの喪失感とも闘っているのだと思います。「コロナうつ」は正常な反応です。

この状況下での相談室の開室継続について、日々悩んでいます。出来うる限りの予防策はとっているつもりですが、もちろん完全に安全ではありません。考えあぐねた上で、オンライン面接も導入しました。同じ空間を共有しその場に互いでつくっていく空気というカウンセリングに不可欠な要素が、オンラインだと大いに薄まってしまいます。けれど、このような状況だからこそ、静かに自分自身を語る場を失ってはいけない、そのような思いから、皆さんの協力のもとに開室を継続し、オンライン面接を導入しています。失なう過程のなかでも維持できるものがある、それを信じたいと思います。